SSブログ

「ヴァーチュオーゾ」:ジョー・パス [ジャズ関係]

 1974年に発表されたこの作品の録音日は「1973年8月28日」とクレジットされている。つまり、明日で録音からちょうど50年経過ということになる。

 特にジャズの50~70年頃に録音されたアルバムは、数日で録音終えたアルバムも多く、そうした場合録音日が記載されていることがある。この情報は、普段から気にかけていて、例えば日付を見ながら、これは真冬の一日だったのか、これは秋の終盤頃か、などとイメージを横に置きながら聞いていることがある。そんなことを気にかけていると、思わぬ発見もあり、今回の場合、日付のみならず50周年の節目ということで、特別感もある。

 ジャスのアルバムで単独楽器といえば、もちろんピアノのソロはそれなりに見かけるが、ギターとなるとそう多くないはず。単調になるかと思いきや、とんでもない、アルバム全12曲で50分を超えるが、ギターのみの演奏とは思えない、多彩で広がりのある音で飽きさせない。

 ギターの繊細な響き、アクセントの置き方、間合い、涼し気なリズム感、強弱のバランス、ナチュラルなスゥイング感。そうした変化が次々とよどみなく繰り出され、テンポを、表情を、雰囲気を変えながら、馴染みのスタンダード曲を新鮮なものとして見せてくれる。
 どの曲も味わいがあるが、一曲目の「Night and Day」はこのアルバムで一番気に入ってる。冒頭のアコースティックな出だし、リズムを加え、聞いてるとそのリズムに身体が自然と反応する。そして6曲目の「Cherokee」。これは高速ギターが聞きもの。特に中間部もスピードダウンすることなく、一気に駆け抜けてく。
 50年も経過した音だが、未だに新鮮さは全く色褪せない。

 更にこのアルバムの魅力を言えば、いつ聞いてもいい、ということ。午前中、午後、夜の時間、どの時間帯でもフィットする。また各季節の中においても、冬の寒さ、秋のしっとりとした時間、春の訪れ、そしてうだるようなこの猛暑の中でさえ、合う。
 自分にとっては、何というか、万能型のアルバムである。
 
 本当は明日2023年8月28日に聞くのがよいが、昨日聞いてしまい、まあ少しフライングだが、よしとしよう。

CD:Virtuoso / Joe Pass (1974) Pablo

コメント(0) 
共通テーマ:音楽

ソール・ライター写真展 [展覧会・写真・絵画など]

 ソール・ライターの名前は聞いたことがあったが、まとまって作品を見るのは今回が初めてだった。きっかけは「新美の巨人たち」というテレビ番組で取り上げられたことだったが、これは見とかないとと感じた。

 展覧会の期間終了が近くなった平日の夕方渋谷で見てきたが、特徴的だったのは、プロジェクションの駆使、カラースライド展示を含め400点超という規模感は今まで見てきた写真展とは一線を画した構成であった。特に展示室の最後に登場した大空間でプロジェクションは10画面で構成した空間。かなり広さのあるスペースを使い、10面それぞれ別個のスライドが数秒間ごとに入れ替わり、それぞれの断片的なストーリーを垣間見せてゆく。
 街のちょっとした表情、ポートレート的な作品、そして雪が降るニューヨークの空気感。時代も場所も全然違うのに、自分の生まれ育った土地で降った雪の記憶がそこに重なる。雪の降った時の見上げた空の感じとか空気感が思い出され、寒いのにどこかほっとするものを感じていた。

 作品を見てゆくと、例えば初期のモノクロ作品では一瞬を切り取ったような写真がある。通りを歩きながら偶然遭遇した瞬間の記録。ピントが合ってなくても、動きの中でとらえた作品。被写体や人物の後ろ姿とカメラの位置は近く、そして早い。また一方で画面は遮蔽物が大きく前面を覆い、アンバランスな状態にもかかわらず、そこに生じた隙間から見える街や通り、動く人が、のぞき見的な感じとともに、リアルな瞬間を感じさせる。

 そして、作品を見てると、じっくり見るより、ある程度の速度をもって見ていた気がする。一般的な写真展だと作品を正面からじっくり見るというスタンスだが、今回の展示会はカラースライドやプロジェクションを使ってるため、じっくり見るより、次々に入れ替わるスライドを眺めてゆく感じだった。
 移り変わる街のありようや風景。そこを通過し、束の間とどまる人々の流動的な瞬間。それらをプロジェクションにより眺めることで、イメージが蓄積されてくような気がした。10画面で構成された暗い空間で、じっとプロジェクションを眺めながら過ごした滞在時間は、短かったものの記憶に残る感じがあった。

 あと、個人的に印象に残ったのは、一連のポートレートの中のダイアン・アーバスの2枚の写真、そして「散歩」と題された作品。ダイアン・アーバスは90年代に写真展を見たことがあり、その時の強いインパクトが瞬時に蘇ってきた。そして「散歩」という作品、この作品は見たことがある。そう、ポール・オースターの「オラクルナイト」が文庫版の表紙に使われてる写真。これがソール・ライターの作だったのか。オースター作品ではニューヨークの街中、歩くことが何度か登場するが、それらのイメージとクロスするこの「散歩」という作品は多重的に象徴的な感じにも思えてきた。



2023/7/8~8/23 ソール・ライターの原点 ニューヨークの色
ヒカリエホール ホールA
コメント(0) 
共通テーマ:音楽

「スピリット・オブ・ザ・モーメント」:ジョシュア・レッドマン [ジャズ関係]

 音楽が過去の時間や記憶と結びついてることがある。「この曲を聞くと、あの頃を思い出すな・・・」、「昔の出来事とあの曲とが、未だに関連付いてる気がする・・・」、「冒頭のイントロ耳にすると、当時の時間に戻されてゆくよう・・・」などなど。

 1995年、京都に旅行してきたことがある。今では、何か動こうとすると、リスクを心配しながら計画してからでないと行動しない習慣が身についてしまったが、あの頃は突発的に動けた時期だった。ある日突然、京都行こうか、と思いたち、計画もたてないまま一人夜行バスに乗った。考えるより先に動き、夜行バスが早朝に到着した京都という町に降り立つと、朝の時間は肌寒さがあり、空気に張り詰めた感触が心地よかった。さて何を見ようとか、決めないまま訪れた京都、そこで1泊2日過ごした。

 午前中は歴史的に有名場所を回り、午後は街中散策してみたが、途中でジャズ聞きたくなり、ジャズ喫茶に入った。京都とジャズ。未だにこの組み合わせが記憶のどこかに残る。
 翌日は早起きし、山科の大文字山を登ってきた。そのあとまた少し各所めぐって、駅のほうに戻り、そろそろ帰ろうかなと考えながら、コーヒーを買ったりしてるうちに、ふと何気なくCD店に立ち寄った。前日のジャズの余韻もあり、ジャズの新譜コーナーで何枚か視聴していたのだが、その中の一枚がジョシュア・レッドマンの新作ライブ盤だった。

 ライブ盤ならではの、生き生きとした音が流れる。レッドマンのサックスが、その時の自分の感覚、突然の旅の衝動、街の雰囲気などに、照合した。ヘッドフォンで聞いた音の焦点が、すべてクリアに、ぴたりと合った。どのくらいの時間聞いてたろうか。短くはなかったが、長すぎたこともなかったはずだが、音楽と感覚が完全に一致した瞬間は、その後も忘れることができないものとして感覚記憶に残った。今でもこのアルバムの音を聞くと、あの時間や京都に引き戻されことがある。

 さて、このライブCD、先日久しぶりに聞いてみた。J.レッドマンのスタジオ録音されたCDはこれまで何作か聞いたが、どうもクールすぎるというのか、何かのめりこめないことが多い。演奏はいいのだが、逸脱したり、強烈に惹き付けるプラスアルファが見えないことが要因なのかもしれない。しかし、このライブ盤は違う。全然、違う。

 とにかくJ.レッドマンのブローは熱気を帯びている。自由自在に気持ちの赴くまま、緩急の変化をつけて、聞かせる。2枚組全14曲中9曲は10分を超え。合計2時間半近くかかり、今回全部聞きなおすのに2日に分けたが、長時間というの難点もかかえつつ、内容は多彩。グルーブのある曲、独独のムードの自作曲、バラード、抽象的な曲。中でもやはりご機嫌なミドルテンポから入るチューンがいい。DISC1では「Jig-A-Jug」「Remember」「St. Thomas」の3曲がそのあたりに該当するが、中でもロリンズの「St. Thomas」、これぞジャズの醍醐味が凝縮された一曲だろう。
 冒頭の無伴奏のサックスから始まるが、徐々にあのメロディーの片りんをちらつかせながら、4分30秒間無伴奏サックスで吹き切る。そして中間部からはピアノ、そして最後はドラムとサックスの掛け合い。このドラム奏者、ブライアン・ブレイドのドラミングはタイトで切れ味爽快、そして最後はテーマに戻り、あっという間の12分間である。

 購入してからもう25年以上経過したこのCD盤を聞き直してるうちに、またいつか京都を再訪してみるのもいいか、などと思ってみた。

CD:「Spirit of the Moment Live at Village Vanguard」/Joshua Redman Quartet
「スピリット・オブ・ザ・モーメント:ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」
(1995年)ジョシュア・レッドマン

Joshua Redman saxophone、Peter Martin piano、Christopher James Thomas double bass、
Brian Blade drums
コメント(0) 
共通テーマ:音楽

ポール・オースター「サンセット・パーク」 [ポール・オースターの本]

 廃屋に不法居住する4人の男女の視点からストーリーが積み上げられゆく、群像劇のような形式。それぞれの抱える悩み、切羽詰まった経済状況から選択の余地が狭まった中、不法居住を余儀なく選ぶ。終盤に向かい、暫定的な暗黙の了解、関係性の変化が当座の妥協点を見出すかに思えたのだが、不法居住の問題は棚上げしたまま残ってゆく。そして当然のごとく、先延ばししてきた、不可避の問題に直面し、時間は突然停止する。

 4人の個々の独立した視点はあるが、一方で物語の中心はマイルズ・ヘラーという男をめぐる人間関係の方にも比重が置かれてる。父の再婚相手の義兄の事故に対する自責の念から両親の元を失踪、隠れるように生きてきた彼の人生が一人の若い女性とに恋することから、動きだす。

 群像劇とはいえ、冒頭そしてラストがマイルズ・ヘラーの視点で書かれた章ということで、中心はマイルズにあるようにも思えるが、彼を影のような場所から見てきた彼の父親の視点にも重きが置かれてる気がした。

 こうした複数の視点、不法居住する4人~マイルズ周辺の家族たちのストーリーを束ねるかのように、「我等の生涯の最良の年」という古い映画作品が随所に現れる。調べてみるとこの映画1946年 公開された アメリカ合衆国の映画だった。大学院生のアリスが論文題材でとりあげ、父の出版社と契約してる作家が移動中のフライトで見て、アリスとのエレンの会話でエレンの祖母が好きだった作品だったり、マイルズの生みの母の夫が講義で使う映画として。何かバラバラの関係を、蜘蛛の巣のように結びつけ、各方向に延びたそれぞれの物語を関連付けているかのよう。まるで、見えない糸で結合し、物語の関係をバインドしてゆくメタファーにも感じられた。

 途中マイルズの恋の発展、両親との和解など楽観的なムードもでてくるが、しかしラストは現実からの逃れようもない問題が重くのしかかる。そこにどう向き合ってゆくのか、それは書かれてはいないのだが、決して楽観的な空気は見えない気がする。ただ、いかなることがあろうと、どういいう行動になろうとも、生きてゆくことが延長線上に感じられる。

 さて、ポール・オースター作品は10年前から継続的に書いてゆくプロジェクトを立ち上げ、不定期的に進めてきたわけだが、予想以上に進捗がスローペースとなっている。
 現在生活の中で会社仕事部分も減ってきて、時間的に余裕が出来たこともあるので、今後少し集中的に取り上げてゆこうと思ってる。ちょうどこの猛暑で外出控えだったこともあり、既に先月から読書時間を増量、この2カ月間でオースター作品は2作読み、今回はそのひとつを書いてみた。
 もちろん今まで通り、気が向いたら書けばそれでいいのだが、こうしてあえてペースアップします、などと書くことで、自分に対し課題設定が与えられる。いつでもできると思ってしまうと、かえってペースが作れなくなり、先延ばししてしまうので、ここは少し集中的に取り組むため、年内は毎月最低一冊オースター作品を読む、としよう。


「サンセット・パーク」ポール・オースター/ 柴田元幸訳(2010)新潮社
(Sunset Park )
コメント(0) 
共通テーマ:音楽

ジョージ・ベンソンの歌とギター [ジャズ関係]

 先週、友人からの勧めで「村上RADIO」(TOKYO FM  2023/7/30)という番組を聞いてみた。この日のテーマは「歌うジャズ器楽奏者たち」という、何とも珍しい内容で、まあダラダラと聞いていた。元来ジャズボーカルものは関心高い領域ではなかったこともあるが、オンエアされた曲は知らない曲ばかりで、こんなのがあるのか、と物珍しく聞いてたが、途中の話の中で「ジョージ・ベンソン」の名前が出てきた。

 ジョージ・ベンソンの歌か。確かに彼も相当メジャーな「歌うジャズ器楽奏者たち」かとも思うが、個人的にはそのことをあまり意識して聞いてこなかった気がする。割とコンスタントに聞いてるほうだし、今まで聞いたアルバムを数えると10枚近くあるはず。

 70年代作品に対してはもっぱらジャズギタリストという位置付けで聞いていた。歌の方に関しては、付け足し要素という感じでメインはギタリストというとらえ方だった。ベスト盤は繰り返し聞いてたものの、特に意識して聞いてきたミュージシャンというわけでもなかった。

そんな中、2000年のある日CD店で新譜みてたら、ちょうど「アブソルート・ベンソン」というアルバムが目の前にあった。どういう理由かはっきりしないのだが、ジョージ・ベンソンの新譜いいかもと思い、唐突に購入してみた

 聞きやすいこともあったが、このCDは繰り返し何度か聞いた。だいぶ経ってからこれはこれでなかなか良いのでは、と思い始めてきた。冒頭の「The Ghetto」は歌も入るが、以前のようにギター部分だけに特化せず、歌とギターを区分しないで、合わせ技一体として音楽を自然と聞いていた。そして極めつけはスティーヴィー・ワンダーのカバー曲「Lately」。この曲は歌なしでギターだけの演奏なのだが、そのギターがとにかく歌う。歌ってもそれなりに仕上がったと思うが、ギターだけなににこんなにも歌心がある演奏を聞くと、もう区分することなくどっちもいいなと感じるようになった気がする。

 最近聞いたアルバムは、2009年に発表された「ソングス・アンド・ストーリーズ」という作品。タイトル通り歌中心のアルバムだが、このアルバム聞くと、歌がうまくなったというのか、味わい深くなった気がする。けっこう新曲が多く、いいメロディーがあれば、あとは自然と歌い演奏するだけといわんばかりの、リラックスしたスタンスから、しっかりとした音楽が生まれてくる。一方有名曲などのカバーは、ゆったりとした肩肘はらない歌い方、ダニー・ハサウェイ「Someday We'll All Be Free」、ジェームス・テイラー「Don't Let Me Be Lonely Tonight」などが収録。そしてクリストファー・クロスの有名曲「Sailing」のカバーは、ほぼギター演奏のみで、これがまた何とも歌う。原曲の独特のムードを丁寧に掬い取るように、ギターの音がほとんど歌うように聞こえてくる。

 感じ方や聞き方の変化が徐々にかみあってきたようで、近年ジョージ・ベンソンの音楽がゆったりと聞けるようになった気がする。

CD:「アブソルート・ベンソン」Absolute Benson(2000年GRP) / George Benson
   「ソングス・アンド・ストーリーズ」Songs and Stories (2009年、Concord) / George Benson
コメント(0) 
共通テーマ:音楽