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レニー・トリスターノ [ジャズ関係]

 レニー・トリスターノというジャズ・ピアニストの、その独自すぎる音色はジャンル枠は超え、ジャズというカテゴリーに閉じ込めておくこともできない、と思ってきた。

 その音は鮮烈で、ゴツゴツとした粗い物質、叩きつけてくるようなタッチ、ザクザクとした粗削りな触感を想起させ、滑らかさとは対極の音がそのピアノから弾かれてくる。ジャズの文脈でよく「トリスターノ派」とか「クール・ジャズ」とかという言葉とともに言及されているようだが、スウィング感より硬質なリズミック感が前にでてきてる音、と感じる。

 ただ、この人の主要な作品は極めて少ない。サイドメン参加とかライブ盤とかはあるのだが、存命中にでたリーダーとしてのアルバムはわずか2枚。

1955年の『鬼才トリスターノ( Lennie Tristano)』
1962年の『ニュー・トリスターノ(The New Tristano)』 

 このうち最初に聞いたのは「鬼才トリスターノ」の冒頭曲「ライン・アップ」。この曲を聞いたとき、その乾いた硬質なピアノ音に驚き、インパクトを受けた。ドライで柔らかな音色から乖離したその音を耳にすると、それまで聞いてきたジャズピアノの作品とあまりの違いに、戸惑いつつ、強いインパクトがあった。
 
 そしてこのアルバムの特徴として、前半と後半の著しい差異があるということ。前半はトリスターノワールド全開で、わずか4曲目とはいえ、ガツンとした衝撃がある。4曲中、ソロ演奏2曲とトリオ演奏2曲という形だが、このトリオ演奏についても通常とかなり違う。共演者にドラムとベース奏者の名前はあるが、ほぼトリスターノの世界を後方サポートするだけで、ドラムとベースが前面に出ることなく、ソロも介入する余地もないまま、トリスターノだけが突っ走る。

 しかし、後半は全く違い、前後半で別物の2部構成となっているのだ。
 後半の残りの5曲は、リー・コニッツらとのカルテットによるライヴ音源が収録されているのだが、前半のドライで乾いた硬質感のある音は影を潜め、その落差に拍子抜けするくらいの違いがある。ただし、よくよく聞いてると、滑らかさには程遠いタッチは感じられる。

 そして、一般的なジャズの演奏のお約束事的展開とどうも違う曲がある。例えば「You go to my head」では最初にコニッツのアルトサックスがメロディーを奏で、中間部からトリスターノのピアノに移り、そしてそのまま最後までトリスターノが弾ききる。ピアノソロに受け渡した後、最後はサックスに戻り・・・という展開が欠落したまま曲が終わる、唐突で何か消化不良を感じさせるこの終わり方。5曲中2曲がサックスに戻ることなくピアノで終わってしまう、これもまた不思議な違和感を生じさせる。
 
 この前後半の内容には埋めきれない落差、温度差があるとはいえ、やはり前半4曲だけでもあり余り過ぎるくらい大きな価値がある。トリスターノのドライで硬質な、粗いメッシュの、ゴツゴツしたタッチのピアノの音色は、他のピアニストとは全く違う、その音に触れることができるのだから。
 しかも50年代のこの録音で、すでに前半4曲で多重録音とかテープの速度変更など試みてることから、おそらく現代の録音環境で作成してたら、どんなことやったのだろう、そんな空想も浮かんでくる。

 蛇足ながら、このアルバムタイトルは「Lennie Tristano」で、邦題は「鬼才トリスターノ」と変換されている。当初すごいタイトルだなと思ってたが、最近これは結構内容に合っており、適切な題名なのかもしれない、と思うようになってきた・・・。

CD:「鬼才トリスターノ(Lennie Tristano)」(Atlantic 1955年)
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