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ヘンツェ:午後の曳航(三島由紀夫原作) [オペラ]

 9月からオペラを観ることが多かったが、3か月間で4回というのは久しぶりの多さになった。この日は三島由紀夫原作のオペラ「午後の曳航」。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェが1986~1989年にかけ作曲した作品とのことだが、音楽自体もそうだが作曲家に関しても全く知らなかった作品である。また三島由紀夫作品はいくつか読んだが、この小説は知らない作品だったので、事前に読んでおいた。

 小説は「第一部 夏」「第二部 冬」という構成で、母と息子、そして航海士の3人視点が描かれるが、それぞれが影響しあうものの、視点方向が異なっていてどこか交わらないまま進んでいくように思えた。

 昨日オペラ公演を観てきたが、台本は原作に則ってるものの、一部違いもあり、例えば未亡人の舶来洋品店の仕事の場面は出てこなかった。また小説では横浜山手を舞台にした設定で、朝方や午後の光を感じる場面もあったが、舞台のトーンは全体的に暗めで、夜や闇を中心とした背景だった。

 登の心情の動きに対し、ダンサーが黒子のように動いていたが、これは面白かった。原作では少年らの冷酷さや残酷性が直線的に見えたが、この日の演出では、登の心情にはどこか、ためらい、迷い、逡巡があり、意思決定の揺らぎも見え隠れしていたように思えた。

 全体で2時間弱の中14場の場が設定されてたようで、場面転換が短い時間で入れ替わり、スピーディーな流れだった。またストーリー性が高く、アリア的な歌も出てこないためオペラを観たというより、演劇的な要素が多い作品を観た感じだった。どうしても舞台の物語進行に目線がゆき、音楽自体をじっくり聞けなったものの、ラストの方に向かう緊張感と音楽はかみ合っていたと思う。またオペラではピアノの音はあまり聞こえないが、この作品ではピアノの音がところどころ出てきて、印象的だった。

 また急に寒くなり、気温の変化が激しいままどうやら冬に入っていったのか。
 そうこうするうちに今年もあと一か月となったな、と帰る途中ふと思った。

2023/11/25日生劇場
指 揮:アレホ・ペレス
演 出:宮本亞門
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

黒田房子 林 正子
登/3号 山本耕平
塚崎竜二 与那城 敬
1号 友清 崇
2号 久保法之
4号 菅原洋平
5号 北川辰彦
航海士 市川浩平 ほか

原作:三島由紀夫『午後の曳航』
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棟方志功展/東京国立近代美術館 [展覧会・写真・絵画など]

 うまくゆかないことや失敗が相次ぎどうにもこうにも落ち着かない状態が続いてた。何か変化が必要だったので、急遽翌日は外出してこようと思った。ちょうど棟方志功展が開催されており、見に行く予定だったので、これに決める。

 大学生の20代前半を青森県で過ごしたこともあり、棟方志功は断片的に知ってたが、まとまった形で見るのはこれが初めて。竹橋駅で降り、東京国立近代美術館に向かう。今回は生誕120年の回顧展ということで展示作品が多かったが、まずはサイズ感が目を引く。大きい、そのスケール感に迫力を感じる。
 時系列的に見てゆくと、知らなかったことが随分多く、創作活動の広範囲さには驚いた。仏教画など板画中心のイメージだったが、それ以外の活動も多岐にわたり、本の表紙、渡米、包装紙のデザイン、自画像、メディア出演とまあいろんなことに取り組んでいる。

 個人的には、谷崎潤一郎の「鍵」「瘋癲老人日記」における棟方志功の挿絵は密接にかかわってる印象があり、ここは改めて実感した。それ以外にも小説や雑誌の表紙はずいぶんと多く関わっており、また横浜の勝烈庵の包装紙とかは、ああそういえば、という感じで懐かしく思い出した。また渡米した時、カラフルなホイットマン詩集の英文なんかもやっていたり、これは意外だった。そして自画像がひょうきんな感じで、こんなのもあったのかと思った。こうした多方面の活動総体がムナカタなのだろうと思った。

 こうした中、全く知らなかったのだが、音楽との関連作品があった。「運命頌」、「歓喜頌」、「歓喜自板像・第九としてもの柵」というベートーヴェンに関連した作品(「運命頌」の英文は「In Praise of Beethoven’s Fifth Symphony」、「歓喜頌」「In Praise of Great Joy : On Beethoven’s Ninth Symphony」)がそれで、見ていると、画面のエネルギーの炸裂さに付帯できる音楽としてベートーヴェンは、なんとなくイメージはできた。逆にそれ以外の作曲家を思い浮かべてみたが、やはりベートーヴェンがこの作品にはフィットする気がする。

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 展覧会見終えた数日後の夕方の酒タイムに、久しぶりにベートーヴェン交響曲第9番を聞いてみた。部屋ではめったに聞かない曲で、また酒とクラシックは基本的に組み合わせないが、棟方志功作品見た後だったせいもあり、ベートーヴェンと日本酒という初めての組み合わせを試してみた。タイミングのせいもあり、展覧会の振り返りとかなどもしながら、まあこういうのもなかなかかと・・・。

 その振り返り時間で再度思い返したのは、勝烈庵のこと。以前桜木町にコンサートへ行くときに、よく使ったコースパターンというのがあって、
・関内駅で降り中古CD店で物色→・途中昼食を食べる(そばが多かった)→・みなとみらいホール(県立音楽堂の時もあり)
というコースをしばしば設けていたが、その途中に勝烈庵の店の前はよく通ったことがあった。ここで食べたのは大昔で、でも雰囲気のある店だったので、店前を通過するルートをよく選んでたのだが、そんなことを思い出し、ネットでホームページとか見てたら、サイト内に「棟方志功と勝烈庵」というページがあった。そのあとメニューとか見てたら、やはり食べたくなった。調べると勝烈庵フーズで弁当販売もあるので、今度横浜に立ち寄った際にでも買ってみようか。


生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ
東京国立近代美術館 2023年10月6日〜12月3日
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ヴェルディ:マクベス/NISSAY OPERA 2023 [オペラ]

 昨日は10年振りにオペラ「マクベス」を観てきた。
 前回観たのが2013年5月の公演で、コンヴィチュニーによる演出のものだったが、演出はかなり現代的なヴァージョンへの読み替え版で、面白かった部分と違和感も残った。その時最初は、やはりオーソドックスな演出で観たいものだ、とも思った記憶があり、今回は通常的な演出で初めて観ることとなった。

 全体的に舞台は照明を落とし、暗さが支配しており、フラットに明るい場面はほとんどなかったと思うが、魔女たちのおどろおどろしい場面、マクベスと夫人の策謀をめぐる会話、亡霊の登場など作品のトーンはダークな部分も多く、暗めな舞台は適切な感じだった。

 前回同様、今回も観る前に原作を読み直していたが、原作はきわめて短く、テンポも早い。今回はオペラと原作の差異部分を意識しながら観ていたが、原作では登場人物が多いが、ヴェルディ作品では、かなり限定されている。また大きな違いとしては1幕と3幕に登場する魔女たちのシーンで、原作では3名の魔女だが、オペラは合唱として取り扱われてる。また、2幕の国王就任の宴席の場における乾杯のシーンは、原作と違い、非常にオペラ的な感じとなっている。また当然ながら原作のカットされた部分もあり、こうした差異を比較しながら観ていた。

 この作品はマクベスという人物がタイトルロールとなってるが、その黒幕として夫を動かすマクベス夫人があり、音楽的にも夫人のアリアは全体枠に強く色彩を与える。マクベスが抱えつつ抑制されていた権力への野望が、外部の要因(魔女の予言とか夫人の言葉)に突き動かされてそのスイッチが押され、現実化し暴走し、崩壊へと突き進むが、音楽的には、魔女の合唱部分やマクベス夫人のアリアがすごく強い。円の外側で動いたのはマクベスだが、軸の中心には隠れながらもマクベス夫人が演出してるようにも感じられた。
 
 改めて今回聞いてみて、合唱部分が非常に強力な作品だったと思った。第1幕、2幕のラスト、3幕での魔女たちの合唱、4幕冒頭の難民による祖国への想いの合唱など、観終わった後にもこれらの合唱の音楽が印象的に残った感じを受けた。

 それにしてもこの日は急激に冷え込んだ。夏の終わりが長々と続き、秋を通過しないで冬の初めに入ったような、そんな気候だった。

2023/11/11 日生劇場
指揮:沼尻竜典 演出:粟國 淳
管弦楽:読売日本交響楽団
マクベス=今井俊輔
マクベス夫人=田崎尚美
バンクォー=伊藤貴之
マクダフ=宮里直樹
マルコム=村上公太
侍女=森 季子 ほか
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シベリウス:後期交響曲/オスモ・ヴァンスカ指揮 都響 [コンサート(オーケストラ)]

 考えてみれば、平日の夜、東京文化会館のコンサートという組み合わせは初めてのパターンだった。もちろん東京文化会館はオペラで年に数回行ってるし、平日の夜のコンサートもたまには行ってる。しかし、東京文化会館には今まで午後開始公演しか行ったことがなく、つまりこのホールで平日夜開催、という組合せは初めてになる。こじつけのようなとこもあるが、こうして少し角度をずらして眺めると新鮮な感じもする。
 初めてということで言えば、今回は電子チケット購入し入場した。映画などで普通に使ってるとはいえ、クラシック音楽コンサートでは初回となった。クラッシック系は未だにチラシも含め紙ものが多いが、今後も電子チケットは増えてくのだろう。

 さて、この日はオスモ・ヴァンスカ指揮のシベリウス交響曲で、しかもプログラムは後期交響曲第5、6、7の三曲という構成。実は遡ること8年前の2015年にも読売日響でオスモ・ヴァンスカ指揮の全く同じプログラムで聞いたことがあり、今回その時と同一プログラムで聞ける機会であった。平日夜の回はあまり選択しないのだが、今回は再度聞きたく先日聞きに行ってきた。

 それにしても、こうして交響曲を3曲並べるプログラムはやはり珍しい
(前半)シベリウス:交響曲第5番 
(後半)シベリウス:交響曲第6番、シベリウス:交響曲第7番

 前半の5番は今まで実演やCDで数回聞いてきたものと少し異なる感触だった。うまく言えないが、表面の粗いゴツゴツした感じも少し感じられた。

 後半の6番は充実した内容。透明感のある開始から始まった第1楽章の後、今までサラッと通過させた第2楽章は今回じっくり聞いた。広がりのある音が、どこかこじんまりとした空間にとどまるような森の中のざわめきというのか、そんなことを思い描きながら、他の楽章と異なる不思議な感じも受けた。
 そしてラスト7番がこの日最も心に残った。単一楽章で20分程度の曲だが、深みのある時間が広がった。その奥行きのある、包括的で、コズミック的な空間は、音楽の進行と共に広がりを伸ばしてゆく。どこまでゆくのだろう、と。
 初めて聞いた時難解で、全く分からなかったこの交響曲7番だったが、今は壮大なスケール感で大きなものに包まれる感覚がある。この日の演奏のように6番に続いて演奏されることで、7番の持つ奥行きの深みはさらに強く感じられた気がする。

 終演後の帰り道、振り返ってみると10月はコンサート回数が多くなり、カウントしてみると計6回だった。一カ月間にこれだけの回数になったのは何年ぶりだろうか。
 それにしても、相変わらず日中の気温は高めで、夜になっても冷えかたが穏やかすぎる。そして11月に入ったというのに依然として気温が高く、なんだか季節感がよくわからない感じになってきた。

指揮:オスモ・ヴァンスカ/ 東京都交響楽団
2023/10/30定期演奏会 東京文化会館
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