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ワーグナー「タンホイザー」 [オペラ]

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 2週間前の「さまよえるオランダ人」に続いて、今回は「タンホイザー」を観てきた。初めて観ることになったとはいえ、数年前から対訳本を入手、CDで聴いたり、DVDも既に見ているので、なんだか初めて聴く気がしなかった。

 ワーグナーの諸作品中で、この「タンホイザー」は、最初に聴くのにふさわしい作品のひとつと呼べるかもしれない。3幕の物語の中に展開も多く、また多彩な要素が出入りしてくる。歓楽の世界と地上世界、歌合戦、ローマへの巡礼、絶望、エリーザベトの祈りと死、そして救済。物語の進行とともに音楽の動きも豊かで、しかも時間的に3時間程度に収まっていることもある。

 公演当日、3月もそろそろ終わり、というのに空気が冷たく、肌寒い。
 
 序曲の始まり。幕が開くまでおよそ15分間、とにかく長い序曲ではある。しかし、これから始まる歌劇の幕開けへの期待感と、その後の音楽がぎっしりと詰め込まれたもの。嵐や海の揺れ、難破船を描いているかのような、大きな波形を描く序曲は、やはりどっしりとして聴き応えがあった。
 
 第1幕はヴェーヌスベルクの場面から始まる。この場面は、全体的にピンクがかった赤色光と霞がかった舞台が展開。地上に戻ると、今度は山間の世界へと移り変わる。
 牧童、そして巡礼の合唱は音楽の伴奏が少ない中、荘厳さを感じさせる。騎士や詩人たちと再会し、やがて歌は男たちの重唱へとなだれ込んでゆく。テノール、バリトン、バスという声が重なってゆき、見事な脹らみと大きさを作り出し、この幕を終える。

 第2幕は歌の殿堂の場から。短いながら魅力的な序曲に続いて、エリーザベトの歌となる。
 のびやかさと明瞭さをもった声が舞台に広がってゆく。芯のしっかりとした、強い意思を感じさせるもの。そして感情の高まりをも十分感じさせる歌。さらに、その後に続くタンホイザーの歌声も、感情の高ぶりがしっかりと伝わってくる。
 こうして二人の歌が、重唱となって、豊かな声の触れあいを生み出していった。この2幕冒頭は、この日、きわめて強く印象に残った箇所だった。

 場面は歌合戦の場となり、有名な「歌の殿堂を讃えよう」となる。やはり視覚的なきらびやかさと音楽、合唱が重なるとCDなどでは味わえない、スケールの大きさが感じられた。
 歌合戦はタンホイザーが次第に激昂してゆくあたりから、場の緊迫感が増してゆく。ここからこの幕のラストまでは、ドラスティックな展開で、一発触発の雰囲気や、独唱・合唱がとにかく素晴らしかった。それぞれの声が交錯しながら、圧倒的なフィナーレを生み出していった。

 第3幕は、全体的に薄暗い中の舞台。エリーザベトの祈り歌、ローマ語りを経て、ヴェーヌスベルクへ再び近づこうとするタンホイザーから一気に音楽が急激に密度を高めてゆく。ここからヴェーヌスの再登場、第1幕の世界に戻ろうとする動きの中、ヴォルフラム”Elisabeth”の言葉で全てが戻ってゆく。タンホイザーの救済と死の中、合唱が響きわたってゆく。
 どういったらよいのか、この最後の合唱の持つ、厳かで静謐な何かがとらえる。静けさだけではない、大きなものが最後の幕とともに残ってゆく。

 主要なキャストの歌声は充実しており、歌声は非常にしっかりと届いてきたと思う。そして、音楽は抑えるところと爆発するところのメリハリがあって、こちらも素晴らしかった。

 見終わった後、堪能しきった、という実感で帰路に向かった。しかし、やはりというのか、帰宅する頃には、程よい疲労感へと変わっていった。
 この2ヶ月で5本のオペラを観たこともあってか、多少満腹感というのを感じたのかもしれない。これからの間、しばしオペラはひと休み。通常の流れに戻ってゆくだろうが、また秋の頃にはいくつか聴くことになりそう。

2012/3/25 神奈川県民ホール
東京二期会、神奈川フィルハーモニー管弦楽団

コメント(1) 
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コメント 1

サンフランシスコ人

サンフランシスコ歌劇場で「タンホイザー」を観たことがあります....

http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id325.pdf
by サンフランシスコ人 (2016-03-02 04:36) 

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