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ヘンツェ:午後の曳航(三島由紀夫原作) [オペラ]

 9月からオペラを観ることが多かったが、3か月間で4回というのは久しぶりの多さになった。この日は三島由紀夫原作のオペラ「午後の曳航」。ハンス・ヴェルナー・ヘンツェが1986~1989年にかけ作曲した作品とのことだが、音楽自体もそうだが作曲家に関しても全く知らなかった作品である。また三島由紀夫作品はいくつか読んだが、この小説は知らない作品だったので、事前に読んでおいた。

 小説は「第一部 夏」「第二部 冬」という構成で、母と息子、そして航海士の3人視点が描かれるが、それぞれが影響しあうものの、視点方向が異なっていてどこか交わらないまま進んでいくように思えた。

 昨日オペラ公演を観てきたが、台本は原作に則ってるものの、一部違いもあり、例えば未亡人の舶来洋品店の仕事の場面は出てこなかった。また小説では横浜山手を舞台にした設定で、朝方や午後の光を感じる場面もあったが、舞台のトーンは全体的に暗めで、夜や闇を中心とした背景だった。

 登の心情の動きに対し、ダンサーが黒子のように動いていたが、これは面白かった。原作では少年らの冷酷さや残酷性が直線的に見えたが、この日の演出では、登の心情にはどこか、ためらい、迷い、逡巡があり、意思決定の揺らぎも見え隠れしていたように思えた。

 全体で2時間弱の中14場の場が設定されてたようで、場面転換が短い時間で入れ替わり、スピーディーな流れだった。またストーリー性が高く、アリア的な歌も出てこないためオペラを観たというより、演劇的な要素が多い作品を観た感じだった。どうしても舞台の物語進行に目線がゆき、音楽自体をじっくり聞けなったものの、ラストの方に向かう緊張感と音楽はかみ合っていたと思う。またオペラではピアノの音はあまり聞こえないが、この作品ではピアノの音がところどころ出てきて、印象的だった。

 また急に寒くなり、気温の変化が激しいままどうやら冬に入っていったのか。
 そうこうするうちに今年もあと一か月となったな、と帰る途中ふと思った。

2023/11/25日生劇場
指 揮:アレホ・ペレス
演 出:宮本亞門
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

黒田房子 林 正子
登/3号 山本耕平
塚崎竜二 与那城 敬
1号 友清 崇
2号 久保法之
4号 菅原洋平
5号 北川辰彦
航海士 市川浩平 ほか

原作:三島由紀夫『午後の曳航』
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ヴェルディ:マクベス/NISSAY OPERA 2023 [オペラ]

 昨日は10年振りにオペラ「マクベス」を観てきた。
 前回観たのが2013年5月の公演で、コンヴィチュニーによる演出のものだったが、演出はかなり現代的なヴァージョンへの読み替え版で、面白かった部分と違和感も残った。その時最初は、やはりオーソドックスな演出で観たいものだ、とも思った記憶があり、今回は通常的な演出で初めて観ることとなった。

 全体的に舞台は照明を落とし、暗さが支配しており、フラットに明るい場面はほとんどなかったと思うが、魔女たちのおどろおどろしい場面、マクベスと夫人の策謀をめぐる会話、亡霊の登場など作品のトーンはダークな部分も多く、暗めな舞台は適切な感じだった。

 前回同様、今回も観る前に原作を読み直していたが、原作はきわめて短く、テンポも早い。今回はオペラと原作の差異部分を意識しながら観ていたが、原作では登場人物が多いが、ヴェルディ作品では、かなり限定されている。また大きな違いとしては1幕と3幕に登場する魔女たちのシーンで、原作では3名の魔女だが、オペラは合唱として取り扱われてる。また、2幕の国王就任の宴席の場における乾杯のシーンは、原作と違い、非常にオペラ的な感じとなっている。また当然ながら原作のカットされた部分もあり、こうした差異を比較しながら観ていた。

 この作品はマクベスという人物がタイトルロールとなってるが、その黒幕として夫を動かすマクベス夫人があり、音楽的にも夫人のアリアは全体枠に強く色彩を与える。マクベスが抱えつつ抑制されていた権力への野望が、外部の要因(魔女の予言とか夫人の言葉)に突き動かされてそのスイッチが押され、現実化し暴走し、崩壊へと突き進むが、音楽的には、魔女の合唱部分やマクベス夫人のアリアがすごく強い。円の外側で動いたのはマクベスだが、軸の中心には隠れながらもマクベス夫人が演出してるようにも感じられた。
 
 改めて今回聞いてみて、合唱部分が非常に強力な作品だったと思った。第1幕、2幕のラスト、3幕での魔女たちの合唱、4幕冒頭の難民による祖国への想いの合唱など、観終わった後にもこれらの合唱の音楽が印象的に残った感じを受けた。

 それにしてもこの日は急激に冷え込んだ。夏の終わりが長々と続き、秋を通過しないで冬の初めに入ったような、そんな気候だった。

2023/11/11 日生劇場
指揮:沼尻竜典 演出:粟國 淳
管弦楽:読売日本交響楽団
マクベス=今井俊輔
マクベス夫人=田崎尚美
バンクォー=伊藤貴之
マクダフ=宮里直樹
マルコム=村上公太
侍女=森 季子 ほか
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ヴェルディ:ドン・カルロ/東京二期会 [オペラ]

 普段なら東京公演を選択するのだが、あいにく日程が折り合わなく、他公演があったので今回はそちらを選択。このため今回は横須賀遠征となった。このホールは10年くらい前に一度訪れて以来のことである。

 普段行ってるホールであれば、交通経路、所要時間、ホール設備などわかってるので、それほど考えることはないが、10年ぶりの場所だとそうはいかないのである。どうにもこうにも不慣れな場所はむやみに緊張してしまう習慣は相変わらずである・・・。開演が13時と早めだったので、普段より時間の余裕もみて外出、京急に乗換え、汐入駅で降車。遠くに来たなという実感あり。

 とりあえず予定時間に到着し、軽く小腹を満たしてから、席につく。今回公演は休憩挟み4時間20分という長時間の作品。実際のところ、近年はできるだけ長時間作品を選択するのは少なくなってきて、やはり年齢的な影響は無視できない。以前は出来るだけ多くのオペラを観たかった時期があり、長時間だろうと時間なんか全く気にならなかったのだが、近年トイレが近くなったり、体調が不安定なことが増え、疲れやすさも重なり、なんとなく長時間ものは回避してきた気がする。とはいえ、これは見逃せないというものもあり、今回のドン・カルロはまさに見逃したくない作品であったので昨日観てきた。

 演奏会形式やMETライブビューイングも含めると今回が4回目だったが、最初観た時から徐々に気に入っていく気がする。今回は少しペース配分を考慮し、ゆったりした気持ちで観たのだが、やはりこの作品はヴェルディの魅力を詰め込んだ作品だと思った。

 ドン・カルロは、かなわぬ恋、息子と父の葛藤、自己犠牲、宗教裁判などの多様なテーマが盛り込まれており、音楽も低音のアリアをクローズアップしたものが多いが、とにかく多様な音楽が織りなす作品だと改めて思った。

 また今回は前回観たオーソドックスな演出とは異なり、解釈はなかなか興味深かった。国家に翻弄される個人があり、そこからにじみ出てくるパーソナルな感情部分にフォーカスしてる感じを強く受けた。カルロの情けない感じや弱さ、フィリッポⅡ世の露わな迷い、起伏のある感情が実はストレートに見えてくるエボリ公女。また感情が濃厚にクロスすると思ってたが、登場人物の距離感にためらいのようなものも感じられ、このあたりは興味深かい演出に思えた。白と黒のコントラストの使い方も良かった。今まで固定的な視覚イメージで聞いてきた部分に対し、別の視点から異なる解釈で照射すると、随分と違ったものに見え、そうか、そういう感じもあるのだな、と思う箇所がかなりあり、そんなことを考えさせながら時間は過ぎていった。

 帰宅してから、ビール飲みながら、とにかく音楽たっぷりと聞いたな、という感じでボーっとしながら夜の時間をただ過ごした。

2023/9/30/よこすか芸術劇場
指揮:レオナルド・シーニ/演出:ロッテ・デ・ベア
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

フィリッポⅡ世:妻屋秀和
ドン・カルロ:城 宏憲
ロドリーゴ:清水勇磨
宗教裁判長:狩野賢一
エリザベッタ:木下美穂子
エボリ公女:加藤のぞみ 他
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「二人のフォスカリ」ヴェルディ/藤原歌劇団 [オペラ]

 昨日は新国立劇場でオペラ。初台の新国立劇場は久しぶりで、振り返ってみれば前回から3年半も経っていた。早いものである。またヴェルディ作品も久しぶりのことだった。
 その演目だが、今回は初期の珍しい作品である。数えてみるとこれまで観たヴェルディ作品は13作、大半は中期から後期作品で、初期は少なかったが、そんな中今回の「二人のフォスカリ」は大変貴重な機会となった。

 今回の演目「二人のフォスカリ」だが、おそらく上演は大変珍しく、公演情報を知った時少なからず驚いた。作品の音楽は聞いたことはなく、名前しか覚えがなく、確か初期の作品だったろうか、くらいしか思いつかなかった。あらすじ調べてみると、政治、復讐、冤罪、悲劇、総督と父であることの狭間で苦悩するフランチェスコの心の動きを深く掘り下げながら進んでゆくようだ。ヴェルディの主テーマの一つである父と息子の関係を軸にしてる部分は、後年の「シモン・ボッカネグラ」につながる箇所も感じられた。

 前半は1~2幕、休憩後に3幕で全体約2時間、ストーリーの展開に重ね合わせた豊かな音楽表現を存分に感じられる時間だった。
 3幕での場面構成で変化が少ないため、セットもほぼ固定しながら、必要に応じ前方と後方の空間を区分することで、複合的な場面も提示。演出は黒白を基調に、総督フランチェスコだけが赤い衣装をまとうことで、よりこの作品における総督という立ち位置をフォーカスするように思えた。

 独唱(ヤコポ、フランチェスコ、ルクレツィア)、合唱、そこに音楽が雄弁な形で寄り添う。重く、深みのある音楽は非常に聞きごたえがあり、音楽的にはベルディの個性の濃淡さが十分に感じられた。そんな中やはりハイライトは2幕のフィナーレ。各々の感情、苦悩が交錯し、重唱を生み出し、合唱が加わてゆく。そして悲劇的なクライマックスへとオーケストラの音が加わってゆく素晴らしい場面だった。

 初期作品で上演機会も多くないようだが、オーケストラの音楽には聞きごたえが充分感じられた。物語の感情の揺れと音楽がシンクロしており、ヴェルディ音楽の個性的な特徴も感じられる、そんな作品だった。今回聞くことができてよかったと思った。

DSC_1398.JPG

2023/9/9 新国立劇場オペラパレス
指揮:田中祐子   管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
フランチェスコ・フォスカリ:上江隼人
ヤコポ・フォスカリ:藤田卓也
ルクレツィア・コンタリーニ:佐藤亜希子
ヤコポ・ロレダーノ:田中大揮
バルバリー:及川尚志
ピザーナ:中桐かなえ
演出:伊香修吾

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レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》(演奏会形式)/日本フィル [オペラ]

 作品タイトルは有名だが、過去に聞いたのは一度だけ。しかもその時は自分の集中力が低かったのか、どうもうまく聞けなかった印象がずっと残っていた。これまで馴染みの少なかった作品だったが、今回演奏会形式で聞き、充実した内容に手ごたえがしっかりと残り、ようやくこの作品に触れることができたようだ。

 以前はオペラの演奏時間は気にならなかったが、年齢的な問題あってか、やはり長時間の作品はすんなりと選べなくなってきた。オペラ以外にも、最近は月に一度くらい映画館に行くようになったが、できるだけ2時間くらいの作品を選択してしまう。3時間近くの作品はちょっと躊躇してしまうことが多く、本当に見たいかどうかよくよく考えてから行動となっている。そういう意味において、この作品は通常オペラ作品より格段に短く、時間的に75分くらということで、心配事なく観れた。
 それにしても、短時間とはいえ、ストーリーの展開の早さがあり、カニオの「衣装をつけろ」以外にも随所にメロディーのある歌も多く、聞きどころが多かった。またヴェリズモオペラという位置づけであるが、思ってた以上に過去のオペラの流れの踏襲部分も感じられた。

 とにかく歌い手の声が皆素晴らしく、演奏会形式という点、また普段より近い席で聞けたこともあり、歌と音楽ともダイレクトに体感できた。テンポのいい流れや濃厚な表現が組み合わさって、あっという間の時間だった。



2023/7/7 日本フィル 指揮:指揮:広上淳一
カニオ:笛田博昭 シルヴィオ:池内響
ネッダ:竹多倫子 ベッペ:小堀勇介 トニオ:上江隼人 
合唱:東京音楽大学 児童合唱:杉並児童合唱団


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R.シュトラウス 「エレクトラ」(演奏会形式) [オペラ]

 昨年11月にサロメの演奏会形式を聞き、次の公演がエレクトラになると知った時点で、必ず聞こうと思っていた。この曲以前から聞きたい曲候補の上位にランクし続けていながら、しかし上演機会なかなかなく、今回ようやくの機会となったので逃すわけにはゆかなかった。何でも日本でこの作品が上演されるのは18年ぶりということ。
 今回は事前予習にCDで3回ほど聞いたのだが、最初聞いた時は相当難解に感じた。3回聞くと少し視界が広がったものの、とにかく実際に全曲通しで聞かないとわからないなと思った。

 当日のホールに入り、開始を待つ。チケットは完売、休憩なしの100分間、ステージは大編成のオーケストラの配置、そして長年待った曲ということも重なって、普段と全く違った緊張感があった。
 
 これだけの人数を配置した大編成から繰り出される音の凄み。その巨大な音に埋もれることなく、強度の高いガーキーの声も場を支配した。前回のサロメの時はホールの後方だったので、今回はもっとオーケストラの近くで席を確保したが、十分すぎるほどの音楽体感ができた。CD聞いた限りではわからないかった音楽だったが、実際耳にすると、複雑なのに起伏のある豊かな音楽として体験することができた気がした。

 不安定で方向性の揺れ動く音楽の中に、「サロメ」の路線を継承してるような展開もあったが、後半作品につながるような音楽性も現れていたことは印象的だった。以前から「サロメ」と「ばらの騎士」との隔たりが大きすぎ、同じ作曲家にこれほどの差異があることがどうも消化できなかったのだが、今回のエレクトラを聞くと、「サロメ」~「エレクトラ」~「ばらの騎士」につながってゆく音楽の筋道が見えてきた感じがあった。
 特に終盤のオレストとの再会の場面での音楽は、「ばらの騎士」の音楽を想起させるかのような柔らかい音楽が出てくる。不協和音の登場がインパクトに残り、エレクトラはサロメに近い作品群かと漠然と思ってたのだが、今回音楽を聞いてみると、シュトラウスの後半作品群のほうにつながる要素も感じられた。
 それはエレクトラがこの後ずっと続くホフマンスタールの台本となった最初の作品となったこともあるだろう。のちの作品にもつながるような音楽が随所に見え隠れしながら、鋭角で不安定な音で進行してゆき、あっという間にラストまで到達していった。

 言葉にならないくらいの音楽体験だった。
 巨大な音の大海原に飲み込まれ、呆然とした。最後のほうの音楽は、感動を超えた、制御できない感情の高まりやうねりが自分の中であって、こういう感覚をもたらした音楽体験は本当に久しくなかった気がする。

2023/5/14 サントリーホール

指揮:ジョナサン・ノット
エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
クリソテミス:シネイド・キャンベル = ウォレス
クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
エギスト:フランク・ファン・アーケン
オレスト:ジェームス・アトキンソン ほか

東京交響楽団 二期会合唱団

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R.シュトラウス/歌劇「サロメ」(演奏会形式) [オペラ]

 この作品を聞くのは今回で3度目。とはいえ、前回が2015年(演奏会形式)で、7年ぶりとなったので、事前にCDで聞き直しておいた。今回はR.シュトラウスの音楽部分にフォーカスし、深く体感できればと思いつつ聞きに出かけてきた。

 全一幕のため休憩なしでおよそ100分、濃厚なストーリーを音楽で描いてゆく。サロメ役の比重が相当高い作品だが、今回のグリゴリアンの声には芯の強さ、ぶれない存在感が感じられ、最初から最後まで素晴らしい声を堪能できた。演奏会形式なので、演技は抑制されてはいたものの、サロメの欲深さ、強引さ、起伏の激しさ、冷酷さなど多彩な性格表現が随所にみられた。また閉じ込められたヨカナーンの声をどこから歌うのかと思ってたが、ステージ後方の上段から声が届いてきて、これは視覚的な効果もよかった。

 どうしても物語の展開に引っ張られてしまいがちなので、今回は字幕は最小限に止め、できるだけ音楽と歌に焦点を合わてみたのだが、R.シュトラウスの音楽の変化がたいへん実感できた気がした。音楽が物語の進行に同期するかのように目まぐるしく変化し、情景や背景、感情などを音楽自体でこれほど多彩に表現できるのか、と改めて感じさせられた。

 これまでジョナサン・ノットと東京交響楽団がモーツアルトのダ・ポンテ3部作を演奏会形式で取り上げ、いずれの回も素晴らしい出来だったが、今回はR.シュトラウスでどんな感じになるだろうと期待してはいたが、やはり素晴らしい音楽を聞くことができた。
 
 今回のR.シュトラウスのコンサートオペラシリーズは、ジョナサン・ノットと東京交響楽団が、2022年からの3年プロジェクトとなるようで、次回は「エレクトラ」。この作品はまだ聞いたことがなかったので、非常に楽しみである。


2022/11/18 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
管弦楽:東京交響楽団
サロメ:アスミク・グリゴリアン
ヘロディアス:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー
ヘロデ:ミカエル・ヴェイニウス
ヨカナーン:トマス・トマソン
ナラボート:岸浪愛学
ヘロディアスの小姓:杉山由紀
演出監修:サー・トーマス・アレン
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ヘンデル/シッラ [オペラ]

 2020年2月の公演中止から2年半の月日が流れ、昨日ヘンデルの「シッラ」がようやく上演された。
 2019年の後半にチケットを入手、初めて見ることとなったヘンデルの作品に期待を寄せつつ待っていた中での中止。やむをえない状況だったとはいえ、気持ちの折り合いを見つけることができないまま、感情に蓋をした気がする。再度見る機会があるとは考えもしなかったので、再集結するとのニュースを見た時、かなり驚いた。失われた機会がまた目の前に訪れ、その機会を逃すわけにはいかなかったので、すぐチケット入手、そして昨日その公演を見てきた。

 今までヘンデルのオペラ作品はDVDとかメットライブビューイングの映画で見たことはあったが、実際の公演は未体験。しかも今回の作品は「最も謎に満ちたオペラ」で、歴史に埋もれた作品のようで、今回の日本初演が完全舞台版世界初演とのこと。このため音源も限られ、事前にネットで断片的なアリアを耳にした程度だった。

 期待しつつとはいえ事前準備は通常より少なかったが、特に今回は衣装に歌舞伎をこれだけ持ち込む演出ということを当日知り、びっくりした。これまで大胆な演出は観たことがあったが、今回の演出は驚かされた。歌舞伎というのも実際観たことがなかったし、こういう演出は初めてだったこともあり、音楽と舞台が始まってから違和感は残ったが、不思議なもので、第2幕あたりでは違和感はなくなり、音楽やテーマ性にフィットしてきた印象だった。そして第3幕のラストのエアリアルの登場、これはまた驚かされた。

 こうした演出の中、主役6名の歌手の声には魅了された。物語は怒り・悲しみ・喜びと感情変移が極めて速く進んでゆくが、特に第2幕では重唱も入り、多様な感情の起伏を矢継ぎ早に繰り出すかのような展開であっという間に過ぎていった。
 アリアは短めで、歌い手が次々に入れ替わり立ち代わりながら、さながら声の饗宴ともいうような展開だった、歌い手の声の美しさや感情表現も十分堪能できたが、個人的に楽しみにしていたのは、ロベルタ・インヴェルニッツィ(フラヴィア役)の声を再び聞けるということ。もう10年以上も前になるが、2010年にインヴェルニッツィのリサイタルを聞いたことがあったので、再び素晴らしい声を聞けたことはたいへんうれしかった。

https://presto-largo-roadto.blog.ss-blog.jp/2010-11-13

 休憩2回を挟み約3時間、歌が次々に繰り出され、また歌舞伎衣装の演出も新鮮さがあり、あっという間の時間だった。またホールはほぼ満席、休憩中のロビーには人があふれ、久しぶりにこれだけの人と熱気やざわめきが感じられた。
 見終わった後、何か夢の中の時間だった気もした。そして2年半の凍結していた時間が融解し、動かされたような、そんな感覚もあった。

2022/10/29 神奈川県立音楽堂
音楽堂室内オペラ・プロジェクト ヘンデル『シッラ』日本初演

音楽監督:ファビオ・ビオンディ(指揮・ヴァイオリン)
演奏:エウローパ・ガランテ
ソニア・プリナ(コントラルト/ローマの執政官シッラ) 
ヒラリー・サマーズ(コントラルト/ローマの騎士クラウディオ) 
スンヘ・イム(ソプラノ/シッラの妻メテッラ)
ヴィヴィカ・ジュノー(メゾ・ソプラノ/ローマの護民官レピド) 
ロベルタ・インヴェルニッツィ(ソプラノ/レピドの妻フラヴィア) 
フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ(ソプラノ/シッラの副官の娘チェリア)
演出:彌勒忠史 ほか


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室内オペラ「サイレンス」/アレクサンドル・デスプラ [オペラ]

 川端康成の小説で唯一読んだ作品といえば、学生の頃に買った「掌の小説」という短編小説だった。当時短編小説をいろいろ探してた時期に読んだ作品だった。今ではどんな内容だっかもう覚えてはないが、何か淡白な印象があった気がする。たぶん今読み直すとまた違った感じがあるかもしれないが、これまではほとんど接してこなかった作家ではある。

 そんな中 昨日川端康成生誕120周年記念作品、「サイレンス」という作品を見てきた。原作は川端の短編小説「無言」ということ。事前にあらすじだけ調べたが、半身不随の作家をタクシーで見舞いにきた作家、世話をする娘が主要人物で、表面の動きだけなぞると事件も起こらず、大きな展開もなく進んでゆく印象。

 舞台はシンプルなセット、フランス語のため両端に字幕があり。中央にはスクリーンで映像を時折映し出す。例えば行きと帰りのタクシーの場面では、舞台では運転手と見舞いに来た作家がただ腰かけて、映像はタクシーの感じやトンネルの映像を映していた。
 「ボーダーレス室内オペラ」ということで、やはり通常のオペラとは違ったものだった。フルート、クラリネット、弦楽器、打楽器奏者10名程度、舞台後方で演奏、指揮は舞台から見えない袖からおこなってた。物語の静的な進行に沿うように、しかし時折音楽がぐっと出てくる場面もあった。

 休憩なしで90分弱、コンサートやオペラなど聞き終えた後の余韻とは違って、物語性や舞台のトーンなどからくる演劇的な要素が強かった印象だった。
 言葉を介したコミュニケーションがあり、一方言葉を介さないものもある、そんなことを考えた。

2020/1/25 神奈川県立音楽堂
作曲、指揮:アレクサンドル・デスプラ
台本:アレクサンドル・デスプラ/ソルレイ
演奏:アンサンブル・ルシリン
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ロッシーニ「ランスへの旅」/藤原歌劇団 [オペラ]

 昨年もこの時期に猛烈な台風が通過したが、先週の台風はさらに凄まじかった。夜中に猛烈な雨風で目を覚まし、(もっとも普通の日でも夜中しょっちゅう目を覚ますが・・・)、これは当面眠れそうもなかったので、一時間ほどはテレビのニュース見ていた。翌日の通勤は遅めに始動したが、電車状況の混乱は長引いた。

 その台風が接近しつつあった先週日曜の午後、ロッシーニのオペラを観てきた。
 帰りには台風の進路がどうなってるか気になってはいたが、午前中の段階では曇り空。行きは大丈夫かと思い出かけたら、5分後突然の豪雨に見舞われる。あれ降ってきたかな、と思ったら、一気にすさまじい豪雨。膝上ずぶぬれの状態で駅に到着、気を取り直して電車に乗り、外の方を見ると雨は上がり、何もなかったような空模様。

 さて無事到着し、久しぶりにロッシーニの音楽をたっぷり聞いてきた。
 物語はたわいもないストーリーなのだが、次々に繰り出されるアリアの声の表現にただ聞きいる。ストーリー展開にあまり頭を使わなかったこともあり、普段より歌そのものにフォーカスでき、時間はあっという間に過ぎてゆく。音楽的には前半部分に聞きどころが多く、重唱部分ではさらに心がうきうきしてくる。
 そして前半ラストの14声によるコンチェルタート。オーケストラを止め、声だけによる重唱から始まり、徐々に音楽がヒートアップしながら、最後は大人数による重唱へ。こんな音楽と歌を聞かされれば、気分は上昇せずにはいられないだろう。自然と高揚感とともに舞い上がっていった感じだった。

 後半は前半に比べると静かな感じもあったが、全体的にすごく楽しめた。普段はじっくりと深く聞きこむようにしてるが、この日は軽やかに、ただ聞くことに徹し、その分存分に楽しめた気がした。
 この作品は4年前に一度観ているのが、その時は事前予習もせず聞いたせいもあってかあまり印象が残ってなかった。登場人物がやたら多く、その多くの登場人物が少しずつ分担しながら次々に歌が出てゆく、そんなイメージだった。
 しかし今回聞いてみると、ずいぶん印象が異なった。音楽は相変わらずのロッシーニであるが、音楽体験を積み、年を重ねたことで、何か自分自身の向き合い方・感じ方が変化してきたのかもしれない。

 帰宅後には強烈な雨風に見舞われが、一方、久しぶりに聞いたロッシーニの音楽も、身体を風のように通過してゆき、そして過ぎ去っていった。でも、見終わってから、高揚感の記憶がしっかり残っており、音楽がふと頭の中にリフレインしていた。

 
指揮:園田隆一郎/東京フィルハーモニー交響楽団

コリンナ(光岡暁恵)、メリベーア侯爵夫人(富岡明子)
、フォルヴィル伯爵夫人(横前奈緒)、コルテーゼ夫人(坂口裕子)、騎士ベルフィオーレ(糸賀修平)、リーベンスコフ伯爵(山本康寛)、シドニー卿(小野寺光)、ドン・プロフォンド(押川浩士)、トロンボノク男爵(折江忠道)、ドン・アルヴァーロ(上江隼人)、ドン・プルデンツィオ(田島達也)ほか

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